里に春
ああ、もう、日本列島は春いろに染まっているようだ。
どうせ、この山里に春の訪れは遅い、と目を伏せたまま冬ごもりを続けていたら、あちらから、そちらから、花の便りが賑やかに届き始めた。
戸を開けて出てみれば、これはこれは、山に点々と白い花が。ニオイコブシである。
いつもの年は3月から4月へと暦が移る頃、向かいの山にポツリポツリと白い花を見つけるのだけれど……。1週間も早い。
川辺の桜もプクプクと蕾をふくらませている。
モミジが小さな小さな葉を手のひらのように広げている。
踊り子草も脚並みを揃えて群舞している。
鶯も鳴いた。今朝の鶯はホケキョと上手に鳴いた。
もうとっくに来ていたのか?林の中で練習した喉を披露してくれたのか?
凍てつく季節、じいっと閉じこもっていた。
感性も何もかも閉じ込めていたかも知れぬ。
戸を開けよう。外に出るとしよう。
里に春が來た。 (前中和子)